東京大学医学部附属病院 感染制御部
岡崎 充宏
奥川 周
森屋 恭爾
1)細菌検査担当臨床検査技師は多剤耐性菌の臨床的な重要性を認識する
- 医療施設内において患者からの耐性菌の検出および各病棟での検出状況を最初に確認および把握することができることの責任を認識する(微生物検査におけるパニックデータのひとつである)
- 他部署との情報の共有化を果たすため、常に適切な情報の発信を心がける
- 細菌検査を外部委託している施設における細菌検査担当技師であっても、その重要性を周知し、迅速な報告などの適切な行動をとる
2)監視および迅速な報告を行うべき耐性菌のリスト作成
- 本手引きにおける「現在注意すべき多剤耐性菌の候補と概要」および「どのような薬剤感受性を示す菌が要注意か」の項目を参考にして作成する
- 本リストを院内の関連部署(医局、病棟、外部委託をしている細菌検査や清掃業者など)に対しても周知を促す
3)報告すべき関連部署における医療スタッフの連絡体制の確立
院内感染および院内流行の発生を認めた際に、ICTを中心とした施設全体における迅速かつ的確な初期行動が求められている。したがって土日祭日などの休日を含めた関連部署への連絡体制を確立しておくことが必要である。そのため連絡先の模式図などを作成しておくことが望ましい。少なくとも以下のスタッフには必ず報告を行う。
- 患者担当医および病棟または診療科のリンクドクター(必要に応じて医局長など)、患者担当看護師および感染リンクナース{必要に応じて看護師長(不在であればその日のリーダー看護師)}などの医師および看護師の双方に情報が伝わるようにする
- 病院全体の感染制御を行っているインフェクションコントロールドクター(ICD)およびインフェクションコントロールナース(ICN)
4)多剤耐性菌が確定した際の報告方法
細菌検査室からの検査結果は報告書の発行およびパソコン端末入力に留まらず、直に伝えることが望ましい。
- 報告は直ちに行う
- 患者から最初に検出された場合には、可能な限り患者担当医および看護師と直接会って報告(ICD、ICN、薬剤師、臨床検査技師が複数で行う。特にICDおよびICNは必須)
- 電話報告は連絡相手にその重要性が伝わらないことがあるため、感染制御によく精通しているスタッフにも伝えることが望ましい
- やむを得ず、臨床検査技師が一人で報告する場合には、事前にICT内で報告内容を決めておく必要がある
- 報告を行った際の簡単な記録を残しておくことが望ましい(報告日、時間、連絡先担当者、連絡担当者、報告内容など)
- 細菌検査結果報告書および端末パソコンにおいてその菌種名や薬剤感受性結果に加えて感染制御に関する情報を同時に記載することも良い方法である(たとえば、多剤耐性菌のため効果的な抗菌薬は限られています。院内伝播に注意をしてくださいなど)
5)報告内容
- 確認された耐性菌について、なぜ制御する必要があるのか、報告の際にその意義について医療スタッフに理解を求めることが重要である。なお、病棟のスタッフがパニックにならないような配慮も必要である。そのため以下のような点が、報告内容に含まれていると良い。
(1) 選択可能な治療抗菌薬が少ない
(2) 細菌学的特徴(菌の生息環境、病原性の強弱、消毒薬の効果など)
(3) 菌の耐性プラスミド遺伝子による他の菌種への拡大の懸念
(4) 感染門戸や伝搬経路などの検討のための追加検査の必要性
(5) 標準予防策および接触感染経路予防策の周知・徹底 - 検査結果の報告者は当該患者の検査が継続中の最新の培養結果も事前に調べて報告することが望ましい(報告の際に聞かれることが多い)
- 報告内容についてICTのなかで詰めておく
6)細菌検査を外部委託している施設の場合
細菌検査専門スタッフではない臨床検査技師が担当し、細菌検査報告を行っている場合がある。
- 臨床検査技師は外部委託先から監視すべき対象菌の検出の報告体制を確立する(外部委託先としっかり詰めておく)
- 外部委託先から受けた細菌検査結果報告に不安があれば、直ちにICTへ相談をする
- 土日祭日における外部委託先からの連絡体制の確立
- 臨床検査技師が勤務していない施設では、外部委託先との連絡体制および報告内容を確立しておく必要がある
7)その他
- 報告を受けた担当医や看護師は、不明な点を直ちにICTや細菌検査室に問い合わせができるようにしておく
- 関連部署は病棟だけとは限らない。たとえば、報告を受けた担当医、看護師、ICTはリハビリテーション、放射線検査および生理検査室など患者が関与する他の部署との情報の共有化も行う
(2010.12.21更新)
最終更新日:2021年11月4日