日本臨床微生物学会

ガイドライン・提言

III.どのような薬剤感受性を示す菌が要注意か - 1)腸内細菌

ファルコバイオシステムズ総合研究所
小松  方

1)腸内細菌

はじめに

 2010年、他国からわが国へのニューデリー型メタロβラクタマーゼ(NDM-1)産生腸内細菌の流入や1)、多剤耐性アシネトバクターおよび多剤耐性緑膿菌による医療関連感染がマスメディアにおいて報道され、過去におけるMRSAやVREの報道と同様、再度多剤耐性菌に対する注目度が社会全体で増している。これら細菌はグラム陰性桿菌であり、湿度の高い環境下で生息しやすく医療関連感染の原因菌となりやすい。その中でも、腸内細菌は経口感染によりヒト腸管内に定着しやすく、特に医療環境では高齢者のおむつ交換等を介した接触感染で伝播しやすい性質を持っている。一方、食品環境問題として基質拡張型βラクタマーゼ(Extended-spectrum β-lactamases、ESBLs)産生腸内細菌の食品汚染が報告されている。これら汚染された食品の接種による健常人の腸管内への定着も報告されており、これが引き金となった市中におけるESBLs産生腸内細菌感染症の増加も問題視されている。従って、医療関連感染対策における一施設内での封じ込め対策のみではこれら耐性菌の伝播は防御できない状況であるとっても過言ではない。本稿では、特に腸内細菌群に限定し、抗菌薬耐性機構に基づいた薬剤感受性検査結果の読み方について解説する。

腸内細菌の主な抗菌薬耐性機構

 2010年9月に厚労省から「我が国における新たな多剤耐性菌に関する実態調査」の協力要請(同年10月に追加事項あり)があった。これに記載されている株の定義2)は、腸内細菌におけるβラクタム系であるカルバペネムまたはセフタジジム、フルオロキノロン系およびアミノグリコシド系の同時耐性としている。これら3系統は腸内細菌群による感染症治療で最も汎用性の高い抗菌薬である。すなわち、これら3系統の抗菌薬に同時耐性を示す株による感染症は治療上極めて問題となる。3系統の主な耐性機序を表1(43KB)に示した。抗菌薬耐性機構は先天的に染色体上に存在する因子と、伝達性Rプラスミドによる因子の2つに大きくわけられる。後者の耐性は前者に比べ、菌種間を超えて伝播しやすい性質を保有しており、前者以上に医療関連感染対策上重要視すべき耐性機構である。

βラクタム系の耐性機構と各種抗菌薬の耐性パターン

  • βラクタマーゼのタイプ
     βラクタム系の耐性機構は主としてβラクタマーゼによるものである。腸内細菌は染色体性にβラクタマーゼ遺伝子を保有し、菌種毎にその遺伝子タイプが異なる。一方、ESBLsやカルバペネマーゼはRプラスミドによる獲得となる。検査室においてはβラクタマーゼのタイプを菌種と感受性パターンから染色体性かプラスミド性かを判読できるように理解をしておく必要がある。表2(50KB)に菌種毎の染色体性βラクタマーゼのタイプと発現について示した。3)腸内細菌は菌種毎にAmbler分類でクラスAかクラスCのいずれかのβラクタマーゼ遺伝子を保有する。クラスAはβラクタマーゼ阻害剤であるクラブラン酸(CVA)で阻害されるが、クラスCはCVAで阻害されない性質をもつ。クラスA保有株はKlebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca、Citrobacter koseri等がある。通常これらの菌種はABPCに対して自然耐性を示す。クラスCはさらに誘導型と構成型に分類される。誘導型はEnterobacter spp.やC.freundii等の菌種が保有し、ある種の抗菌薬存在下(イミペネム、セファマイシン、CVA等)でのクラスCβラクタマーゼ制御遺伝子の誘導によってクラスCβラクタマーゼを大量に産生するようになり、第二世代や第三世代セファロスポリン、モノバクタム、およびセファマイシンに耐性を示す。誘導されない通常の状況下においても、βラクタマーゼを産生している。その為、第一世代セファロスポリンやアンピシリン(ABPC)に自然耐性を示す。一方、構成型は遺伝子を保有しているが通常はβラクタマーゼを産生しておらず、抗菌薬には耐性を示さない。次に、日常的に遭遇するβラクタマーゼのタイプと種々のβラクタムに対する耐性パターンを表3(50KB)に示す。
  • ペニシリナーゼ
     ペニシリナーゼはAmbler分類でクラスA型であり、古くから知られているβラクタマーゼである。主としてTEM-1やSHV-1が知られている。これらはABPCやピペラシリン(PIPC)等のペニシリン系を効率よく加水分解し、これら抗菌薬に高度耐性を示す。CVAやスルバクタム(SBT)で阻害される性質がある。産生量が多くなればなるほど第一世代セファロスポリン(CEZ等)やセフォペラゾン(CPZ)にも耐性を示す。
  • ESBLs
     ESBLsはTEM系やSHV系の構造遺伝子がアミノ酸変異により本来ペニシリンしか分解できなかった基質が第三世代セファロスポリンやモノバクタムにまで拡張したものをさす。現在まで100種類以上確認されている。しかし、国内ではTEM系やSHV系ESBLsはほとんど検出されず、ESBLsの90%以上がToho-1やMEN-1に代表されるCTX-M系ESBLsである。CTX-M系はセフォタキシム(CTX)、セフトリアキソン(CTRX)、セフェピム(CFPM)に高度耐性を示すが、セフタジジム(CAZ)やアズトレオナム(AZT)は見かけ上感性と判定される場合がある。一方、わが国で検出されているTEM系やSHV系ESBLsの多くはCAZやAZTに高度耐性を示し、CTX、CTRX、CFPMは感性と判定される場合が多い。ESBLsはクラブラン酸やスルバクタムによって酵素活性が阻害され、セファマイシン系(CMZやFMOX等)やカルバペネム系(IPMやMEPM等)は分解できない。検査室レベルで実施しやすい確認試験として、CLSIが提唱するCVAを用いた阻害試験法があるが、後述するAmpCを同時に産生する株は見逃される場合がある。そのためAmpCに比較的安定な第四世代セファロスポリン(CFPM、CPR等)を組み合わせたダブルディスクシナジーテストを使用すると見逃しが少ない。
  • K1βラクタマーゼ
     K1βラクタマーゼはKlebsiella oxytocaの染色体に遺伝子が存在する。通常はペニシリナーゼとしての性質を示し、ペニシリン系に耐性、CVAで阻害されるが、SBTに阻害されない特徴がある。βラクタマーゼ産生量が異常に増加した変異株がわずかながら臨床材料から分離されるが、これらはCTX、CTRX、AZTに耐性傾向を示す。K1βラクタマーゼはCVAで阻害され、ESBLsとして誤同定されやすいので注意が必要である。K1とESBLsの鑑別ポイントは、前者はSBTとの合剤、すなわちABPC/SBTやCPZ/SBTに耐性、CAZやCFPMに感性を示すことが挙げられる。K.oxytocaと同様、染色体性βラクタマーゼを過剰産生し、CVAで阻害される性質をもつ菌種としてCitrobacter koseri(C.diversus)やProteus vulgarisがある。表4(43KB)にこれら菌種のMICについて示した。3)K.oxytocaと同様にこれら菌種のβラクタマーゼを過剰に産生する株はESBLsと誤判定されやすいため感受性成績を判読する際は注意が必要である。
  • AmpC βラクタマーゼ
     AmpCはAmbler分類でクラスCに分類される。上述したESBLsやK1とは異なる構造を示す。AmpCはCVAには阻害されない性質をもち、染色体性(表2(50KB))とプラスミド性にわけられる。最近、Escherichia coliの構成型クラスCβラクタマーゼのプロモーター部位が変異し、βラクタマーゼを常に産生する変異株が10%程度で認められている。これらはβラクタマーゼの産生量に依存し第三世代セファロスポリンにまで耐性を示す場合がある。 表5(43KB)に染色体性クラスCβラクタマーゼ保有株の通常の場合と、誘導された場合のMICの変化を示した。3)次に、プラスミド型AmpCであるが、染色体性クラスCβラクタマーゼ保有株との感受性パターンからは識別が困難である。しかし、染色体性クラスCβラクタマーゼを保有しない、K.pneumoniaeK.oxytocaのような菌種(表2(50KB))であれば、感受性パターンでの識別は可能である。これらの菌種は通常セファマイシン系(CMZ、FMOX等)には感性を示すが、プラスミド性にAmpCを獲得することによりセファマイシン系は耐性と判定される。国内で検出されているプラスミド性AmpCの遺伝子型はCMY系等が認められている。検査室で行いやすい確認試験は、三次元拡散法等がある。
  • カルバペネマーゼ
     カルバペネマーゼの国内で検出されているタイプのほとんどはAmbler分類のクラスB型であるIMP-1型メタロβラクタマーゼである。一方、米国ではクラスA型KPCβラクタマーゼによる流行が認められ、2009年には米国CLSIがM100-S19においてカルバペネマーゼは産生株の検出法である変法ホッジテストを提唱した。翌2010年には、M100-S20Uにおいてイミペネム(IPM)やメロペネム(MEPM)のMICブレイクポイントの引き下げを行い、カルバペネマーゼの検出ロジックの見直しが提唱された。なおKPC型はわが国においては1例の症例報告がある。2010年8月にはインド渡航歴のある患者からNDM-1型メタロβラクタマーゼ産生腸内細菌が分離された。翌月には渡航歴のない患者より同βラクタマーゼ産生株が分離された。カルバペネマーゼはほぼ全てのβラクタム系抗菌薬に高度耐性化を示し、βラクタマーゼ阻害剤(CVA、SBT、TAZ)で阻害されない性質をもつ。比較的MICの上昇しにくいβラクタムとしてAZT、PIPC、IPM、MEPMがある。そのためこれらの抗菌薬をマーカーとしたカルバペネマーゼの検出は見逃される場合があるので注意が必要である。通常は第三世代セファロスポリンであるスルバクタム・セフォペラゾン(S/C)やCAZに同時耐性を示す株についてメルカプト化合物阻害試験、ホッジテスト、三次元拡散法等を用いて確認試験を行うと検出しやすい。

キノロン系の耐性機構

 キノロン系は、各種細菌の染色体に存在するDNAジャイレース(gyrA)やトポイソメラーゼIV(parC)遺伝子内にあるキノロン耐性決定領域(Quinolone-resistant determinat region, QRDR)のアミノ酸変異によって耐性化する。QRDR内のアミノ酸変異が1か所以上存在するとオールドキノロンであるナリジクス酸(NA)に高度耐性化するが、レボフロキサシン(LVFX)やシプロフロキサシン(CPFX)のMICはさほど上昇せず、CLSIブレイクポイントでは感性域に存在する。LVFXやCPFXはQRDRのアミノ酸変異箇所の増加によって徐々に高度耐性化していく。EUCASTのエクスパートルール4)ではCPFX耐性腸内細菌はすべてのフルオロキノロンに耐性と報告すると記載している。現在、E.coliProteus mirabilisのLVFX耐性株は20%以上に到達している。CLSIは腸管外サルモネラ感染由来株のNA耐性CPFX低感受性株(MICレベルで0.12~1 µg/mL程度)について、CPFXやLVFXを用いた治療の遷延化や治療失敗例について述べている。そのため、検査室レベルにおけるこれら株については、NAを用いた感受性試験の併用をすることが望ましいとしている。もし腸管外からNA耐性Salmonellaが分離された場合は、臨床医に対してフルオロキノロンの治療に関して慎重な使用あるいは他の抗菌薬療法へのスイッチについて警告を行う。EUCASTのエクスパートルール4)ではNA耐性Salmonellaはすべてのフルオロキノロンに耐性と報告すると記載している。最近、QRDR変異以外の耐性因子であるプラスミド性キノロン耐性因子(qnr)の報告が認められている。わが国においても僅かながら検出されており、NA耐性フルオロキノロン低感受性を示すが、今のところ臨床的意義は明らかとなっていない。

アミノグリコシド系の耐性機構

 アミノグリコシド系抗菌薬の主な耐性機序はアミノグリコシド修飾酵素産生によるアミノグリコシド抗菌活性の不活化である。これらの因子はプラスミド性に存在する。 表6(41KB)にアミノグリコシド修飾酵素のタイプ別の感受性パターンを示した。5)修飾酵素のタイプが異なると種々あるアミノグリコシドの耐性パターンは異なる。これら修飾酵素の影響を受けにくいアミノグリコシドはアミカシン(AMK)やアルベカシン(ABK, ただし腸内細菌には適応菌種としての認可はない)である。修飾酵素の中でAAC(6')は最も多くのアミノグリコシドを不活化するために臨床的にも重要である。現在のところ腸内細菌のゲンタマイシン(GM)やトブラマシン(TOB)耐性株は10%程度、AMK耐性は1%程度に認められる。EUCASTエクスパートルール4)では、GM、TOBおよびAMKの感受性パターンから修飾酵素のタイプを推測し、次のように感受性結果値の変換を行うよう記載している。すなわち、<1>TOBにIもしくはR、かつGMとAMKにSを示す株は、AAC(6')I産生でありAMKをIとして報告する。<2>GMにI、他のアミノグリコシドにSを示す株は、低レベルAAC(3)産生でありGMをRとして報告する。<3>TOBにI、GMにR、かつAMKにSを示す株は、低レベルANT(2'')産生でありTOBをRとして報告する、とある。

おわりに

 本稿では、βラクタム系、フルオロキノロン系およびアミノグリコシド系の耐性メカニズムと薬剤感受性パターンについては解説した。これら3系統以外に腸内細菌群に抗菌力を示す、サルファ剤、テトラサイクリン、ホスホマイシン等がある。3系統のいずれかに耐性を獲得した株は、これら抗菌薬にも同時耐性を示すことが多いため、検査室は、各系統の抗菌薬の感受性パターンを耐性メカニズムの理解とともに認識するとともに、治療薬として有用な抗菌薬を臨床医へ示し、医療関連感染対策に役立てる必要がある。

文献

1)荒川宜親:NDM-1型メタロ-β-ラクタマーゼを産生し多剤耐性を獲得した大腸菌や肺炎桿菌等に関する報告文献の概要.http://www.nih-janis.jp/material/material/NDM-1summary20100820.pdf
2)厚生労働省:「我が国における新たな多剤耐性菌に関する実態調査」の調査検体について.http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/cyousa-shosai.html
3)Livermore DM: Beta-lactamases in laboratory and clinical resistance. Clin Microbiol Rev 8, 1995: 557-584.
4)European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST): Expert rules in antimicrobial susceptibility testing.http://www.eucast.org/expert_rules/
5)Livermore DM et al.: Interpretative reading: recognizing the unusual and inferring resistance mechanisms from resistance phenotypes. J Antimicrob Chemother 48, Suppl.S1, 2001: 87-102.

(2010.12.21更新)

最終更新日:2021年11月4日
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