日本臨床微生物学会

ガイドライン・提言

III.どのような薬剤感受性を示す菌が要注意か - 2)アシネトバクターを含むブドウ糖非発酵菌

三菱化学メディエンス 化学療法研究室
池田 文昭

2)アシネトバクターを含むブドウ糖非発酵菌

注意すべき菌種

 ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌(non-fermenting gram-negative rod)は、ブドウ糖を嫌気的に発酵しないグラム陰性桿菌の総称で、土壌、水系環境だけでなく、ヒトの皮膚や粘膜にも存在する。栄養要求性が低く、栄養分の乏しい湿潤環境でも増殖可能で長期に生存する。Pseudomonas spp.、Burkholderia spp.、Acinetobacter spp.、Stenotrophomonas spp.、Chryseobacterium spp.、Achromobacter spp.などが臨床検体からも検出されることが多く、病院内の日和見感染菌として注意すべき菌とされている。
 ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌の多くは本来的に様々なβ-ラクタマーゼを産生すること、腸内細菌と比較して各種抗菌薬に対する外膜の透過性が不良であるなど元々有効な抗菌薬が少ない。さらにプラスミド等の外来性遺伝子を介して様々な耐性機構を獲得して多剤耐性となる場合も多い。またバイオフィルムを形成する菌株も多く、抗菌薬の効果が減弱することが知られている。本項では、感染症法で定める5類感染症の定点把握(全国470指定届出医療機関からの届出により把握)の対象になっている多剤耐性Pseudomonas aeruginosa(MDRP)および新たに5類感染症の対象となった多剤耐性Acinetobacter属(MDRA)(平成23年1月14日改定、同年2月1日施行)について感受性プロファイルと多剤耐性機構(表1)を概説する。

多剤耐性Pseudomonas aeruginosa (MDRP)

a.感受性プロファイル

 MDRPは、Multi-drug Resistant Pseudomonas aeruginosaの略で、感染症法では、イミペネム(IPM/CS)、シプロフロキサシン(CPFX)およびアミカシン(AMK)の3種類の抗菌薬に対して耐性を示す緑膿菌と定義され、これら3薬剤に対する耐性基準(MIC、ディスク感受性阻止円)は、IPM/CS(≧16µg/mL、≦13mm)、CPFX(≧4µg/mL、≦15mm)、AMK(≧32µg/mL、≦14mm)とされている1)。上記3薬剤に対する耐性基準はClinical and Laboratory Standard Institute(CLSI)の基準に準拠しているが、必ずしも国際的に統一された定義ではなく本邦独自の基準となっている。
 MDRPには、メタロβラクタマーゼ(MBL)を産生するMBL型と非産生型があり、MBL型はほぼすべてのβ-ラクタム系薬に耐性を示すが、非産生型は第三世代セファロスポリンやセファマイシンなどに感受性を示す場合がある。また、MBL産生株の中には、IPM/CSに中等度の感受性を示す株が存在するため注意が必要である。
 我々は、2005~09年の5年間に日本全国の医療機関より収集された11万検体を超える血液材料から検出されたP. aeruginosa 395株について抗菌薬感受性を測定した結果、AMKに対する非感性率(全株数に対する中等度または耐性株数の割合)は比較的低かったが、緑膿菌感染症に多用されるカルバペネム系、フルオロキノロン系薬に対しては20%を超える非感性率であった(表2)。また、血液培養陽性症例の中で同一患者の他病巣(喀痰、尿、central vein catheterなど)からもP. aeruginosaが分離された場合に、同患者の血液由来株に比較して各種抗菌薬に対する非感性率の高い傾向が認められた(表2)。P. aeruginosaが血液培養で陽性になった場合には、他病巣からも菌の分離培養を実施し、本菌が分離された場合には血液由来株と共に薬剤感受性を測定して抗菌薬を選択すべきであると考えられる。

b.耐性機序

 MDRPの耐性機序には誘導・変異によるものと外来性耐性遺伝子の獲得によるものがある(表12)P. aeruginosaは外膜の抗菌薬透過性が低いため、元々多くの抗菌薬に対する感受性が低く、獲得した耐性因子と相俟って高度耐性化することが多い。

  • キノロン系薬
     キノロン系薬の一次作用点であるDNA ジャイレースおよびトポイソメラーゼ IVのキノロン耐性決定領域(QRDR)のアミノ酸残基の置換を引き起こす遺伝子変異が耐性化の最も重要な因子である。
     Resistant-Nodulation-division(RND)型のマルチコンポーネント排出システムもキノロン系薬耐性化に関与している。MexAB-OprM、MexCD-OprJ、MexEF-OprN、MexXY-OprMなどの排出システムが抗菌薬耐性に関与していることが知られており、これらの排出システムの制御遺伝子の脱抑制により発現亢進して耐性化が生じる。キノロン系薬はこれら多くの排出システムにより排出される。
  • カルバペネム系薬
     カルバペネム系薬は塩基性アミノ酸などの透過経路であるOprDポーリンを介してペリプラズム内に移行するが、oprD遺伝子の変異によってOprDの発現量が減少するとカルバペネムに耐性化する。但し、この変異は、セフェム系や他の系統の抗菌薬感受性には影響を与えない。
     P. aeruginosaの産生するβ-ラクタマーゼでカルバペネム耐性において重要となるのは、染色体性AmpCβ-ラクタマーゼ(クラスC)の過剰産生や本酵素の基質拡張変異、メタロβ-ラクタマーゼ(MBL;クラスB)、OXA型β-ラクタマーゼ(クラスD)である。なかでもMBLはモノバクタム系を除くほとんどすべてのβ-ラクタム系薬を分解する活性を有し、本菌のカルバペネム耐性において最も重要な因子である。MBLにはアミノ酸配列の異なるIMP型、VIM型、GIM型、SPM型、SIM型などの報告があるが、本邦で分離されたP. aeruginosaではIMP型が最も多く次いでVIM型が多い。多くの場合MBL産生遺伝子はプラスミドにコードされており、接合伝達により種を超えて高頻度に耐性の伝播が起こる。
     カルバペネム系薬の中でもメロペネム(MEPM)については、排出システムの発現亢進も耐性化に関与している。カルバペネム高度耐性には、OprD1の減少、AmpCの過剰産生、薬剤排出システムの亢進などにMBLの産生が加わることにより生じるものと考えられる。
  • アミノグリコシド系薬
     アミノグリコシド系薬耐性において重要となるのがアミノグリコシド修飾酵素の産生である。アセチル化、アデニリル化、およびリン酸化に関与する3タイプの転移酵素があり、P. aeruginosaにおいてこれらの酵素を産生する菌株の存在が知られている。また、アミノグリコシド系薬の標的部位である16S rRNAをメチル化する16S rRNAメチラーゼ(RmtA)の産生によって高度耐性化が生じた菌株も発見されている。
     RND型薬剤排出システムの中でもMexXY-OprMはアミノ配糖体系薬の耐性に関与していることが報告されている。
  • 多剤耐性化
     MBLをコードする遺伝子は、インテグロンと呼ばれる特殊な遺伝子構造の中に存在し、同時にアミノ配糖体修飾酵素遺伝子、サルファ剤耐性遺伝子、トリメトプリム耐性遺伝子などとクラスターを形成して多剤耐性化に関与していることが報告されている2)。MBL産生株では多剤耐性化している場合が多いので注意が必要である。

c.分離状況

 MDRP感染症は現在「5類感染症」(平成11年4月感染症法施行時は4類感染症)として全国の定点施設から報告されているが、P. aeruginosa感染症の数%程度であると考えられている。我々は2005年から2009年の5年間に日本全国の医療機関から提出された血液から検出されたP. aeruginosaについて調査した結果、3.3%がMDRPであり、その検出率は5年間で大きな変動は認められなかった。また、MDRPの85%がMBL産生株であり、すべてblaIMP遺伝子保有株であった(表3)。

多剤耐性Acinetobacter属(MDRA)

a.感受性プロファイル

 MDRAは、multi-drug resistant Acinetobacterの略で多剤耐性Acinetobacter属と呼ばれている。厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)では、カルバペネム系薬、キノロン系薬、およびAMKに対して同時に耐性を示すAcinetobacter属菌と定義し、これら3薬剤に対する耐性基準(MIC、ディスク感受性阻止円)をAMK(≧32 µg/mL、≦14mm)、IPM/CSまたはMEPM(≧16µg/mL、≦13mm)、レボフロキサシン(≧8µg/mL、≦13mm)またはCPFX(≧4µg/mL、≦15mm)と規定している3)
 現在、Acinetobacter属には、少なくとも17の種名と15のgenomic speciesが確認されているが、諸外国で多剤耐性化が進行し問題となっている菌種は、Acinetobacter baumanniiAcinetobacter genomic species 13TU、Acinetobacter genomic species 3の3菌種であると報告されている4)。自動細菌同定システムなど生化学性状による同定ではAcinetobacter calcoaceticus - Acinetobacter baumannii complexと同定され、A. calcoaceticusA. baumanniiAcinetobacter genomic species 13TU、Acinetobacter genomic species 3の4菌種を区別することができない。A. baumanniiと他のAcinetobacter属菌種を鑑別するためには、16S-23S spacer領域遺伝子の塩基配列、あるいはhouse keeping遺伝子であるgyrBrpoBの塩基配列の多様性などによる鑑別が必要である。しかし、一般の検査室にて日常検査の中で実施することは現実的ではない。A. calcoaceticusは臨床検体からほとんど検出されないため、生化学性状によりAcinetobacter calcoaceticus - Acinetobacter baumannii complexと同定された菌株をA. baumannii groupとして評価することが提案されている4)
 我々は、2009年5月から10月に各種臨床材料から分離されVITEK 2(シスメックス・ビオメリュー)にてA. calcoaceticus - A. baumannii complexと同定された93株をA. baumanniiとして各種抗菌薬に対する感受性を測定した。これらの株をMEPMのMICが4µg/mL以下の感性株と8µg/mL以上の非感性株に分けて各種抗菌薬に対する感受性を比較した結果、MEPM非感性株は感性株と比較して、β-ラクタム系薬だけでなく系統の異なるAMK、CPFX、ミノサイクリン(MINO)、サルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)合剤にも非感性率が高い結果が得られた(表4)。すなわち、カルバペネム系薬に感受性の低下した株では、多剤耐性化している可能性が高いことが示唆された。一方、コリスチン(CL)はメロペネム(MEPM)に対する感受性に関わらず、MIC90が2µg/mLと優れた抗菌活性を示した(表4)。また、シタフロキサシン(STFX)については感性/耐性基準が制定されていないが、MEPM非感性株に対するMIC90は4µg/mLとMICを測定した抗菌薬の中ではCLに次いで優れた抗菌活性を示した(表4)。今回検討した93株の中でMDRAが4株確認されたが、いずれもMBL非産生株でOXA51-likeの遺伝子が検出された。これらMDRA 4株共にMEPMのMICは16µg/mL(耐性)であったが、そのうち3株に対するIPMのMICは8µg/mLとCLSIの判定基準では中等度に分類されることから、注意が必要である(表5)。

b.耐性機序

 MDRAの耐性機序には、MDRPと同様に誘導・変異によるものと外来性耐性遺伝子の獲得によるものがある(表14)

  • キノロン系薬
     キノロン耐性には、P. aeruginosaと同様に、染色体上に存在するDNA ジャイレース、トポイソメラーゼIVのQRDRのアミノ酸残基の置換を引き起こす遺伝子変異や抗菌薬排出システム(AdeABC、AdeM)などが関与する。
  • カルバペネム系薬
     カルバペネム耐性には、A. baumannii が本来持っているOXA型カルバペネマーゼOXA-51-likeの遺伝子の上流にプロモーター活性を有する挿入配列(ISAba1 など)が挿入されたり、外来性にOXA-23-likeやOXA-58-likeなどのカルバペネマーゼ遺伝子の獲得が関与している(表1)。また、OXA-typeに比べると稀ではあるが、海外ではMBL産生株も検出されており、本邦でもIMP-1型遺伝子を保有するA. baumannii の分離例が報告されている。
  • アミノ配糖体系薬
     本系統薬耐性についても、P. aeruginosaと同様にアミノ配糖体のリン酸化酵素(APH)、アセチル化酵素(AAC)、アデニリル化酵素(AAD)などの産生が関与する。また、アミノ配糖体の標的分子である16S rRNAをメチル化する酵素(ArmA)を産生し広範囲のアミノ配糖体に高度耐性を獲得した株が海外で増加しつつあり、最近、本邦でもArmA産生株が確認されている。
  • 多剤耐性化
     近年、臨床から分離されたMDRAにおいて、β-ラクタマーゼ、アミノグリコシド修飾酵素、テトラサイクリン排出ポンプなど多くの抗菌薬耐性遺伝子を含む86kbのAbaR1 resistance island(耐性領域)が見出されている5)。このresistance islandは、インテグロン構造を含み、耐性遺伝子の集積が可能となっており、トランスポゾンとして染色体やプラスミドに転移することもできるため、A. baumanniiだけでなく多菌種へも多剤耐性が伝搬する危険性がある。

c.分離状況

 MDRAの本邦での報告事例を表6に示した6,7)。2008年 福岡県、2009年 東京都および2010年 愛知県の大学病院で集団発生が報告されている。単発例としては、2009年 千葉県、2010年 愛知県の事例がある。JANISの報告では、2007年7月から2009年12月までに報告されたAcinetobacter属の中でMDRAは0.14%で9割が入院患者分離株であったとされている。
 A. baumanniiには、世界的流行株が存在する。2000年頃からヨーロッパで流行したEuropean clone IおよびEuropean clone IIの系統株が、現在では世界中に広まっている。7つの遺伝子(gltAgyrBgdhBrecAcpn60gpirpoD)配列を基に分類したmulti locus sequence typing(MLST)法のデータベース(http://pubmlst.org/abaumannii/)には、100種を超えるsequence type(ST)が登録されている(図18,9)。登録株数が最も多いST92とその類縁株(clonal complex 92; CC92)はEuropean clone II系統の株であり、スペイン、イギリス、オランダ、ドイツ、イタリア、チェコ、ポルトガル、タイ、中国、韓国、オーストラリア、アメリカで分離されている。CC92には多剤耐性株も多く、最も注意の必要なA. baumannii と思われる。今回、我々が検出したMDRAは4株ともにST92に分類され(表5)、本邦の分離株についての他の報告でもST92の検出例が示されている。本邦でも既にEuropean clone II系統のMDRA株が伝播していることが考えられ、今後の動向を注視していく必要がある。

文献

1)厚生労働省:感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/juuishi_todokede.html
2)Lister PD et al.: Antibacterial-resistant Pseudomonas aeruginosa: Clinical impact and complex regulation of chromsomally encoded resistance mechanisms. Clinical Microbiol. Rev. 22:582-610, 2009.
3)厚生労働省院内感染対策サーベイランス:薬剤耐性菌判定基準 (ver2.0)
http://www.nih-janis.jp/section/standard/drugresistancestandard_ver2.0_20101203.pdf
4)Peleg AY, et al.: Acinetobacter baumannii: Emergence of a successful pathogen. Clinical Microbiol. Rev. 21:538-582, 2008.
5)Fournier PE, et al .: Comparative genomics of multidrug resistance in Acinetobacter baumannii. ,PLoS Genet 2: e7, 2006
6)多剤耐性アシネトバクター IASR Vol.31 No.7(No.365)2010.
http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/365/inx365-j.html
7)厚生労働省:多剤耐性菌に関する状況 平成22年9月7日
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/multidrug-resistant-bacteria_d.pdf
8)Runnegar, N. et al. Molecular epidemiology of multidrug-resistant Acinetobacter baumannii in a single institution over a 10-year period. 2010. J. Clin. Microbiol. 48(11):4051-4056
9)Acinetobacter baumannii MLST Database:http://pubmlst.org/abaumannii/

(2012.5.10更新)

最終更新日:2021年11月4日
このページの先頭へ