日本臨床微生物学会

ガイドライン・提言

IV.多剤耐性菌を判別するための各種検査法とその注意点 - 2)微量液体希釈法

関西医科大学附属枚方病院 臨床検査部
中村 竜也

2)微量液体希釈法

はじめに

 各種耐性菌の検出は主にCLSIのカテゴリー判定基準に基づき、“R”(耐性)の薬剤の種類や数から耐性機序を判別し決定している。一方で、臨床効果=判定結果の場合には問題とならないが、MIC値が低値にも関わらず臨床効果が低いもしくは認められない(例:ESBL産生E. coliのCAZ)場合には注意を要し、このような耐性機序を獲得している株を効率よく検出し、見落とすことのないようにすることが臨床治療および感染対策の上でも重要である。そのためには、各菌種と各薬剤に対する基礎抗菌力を把握し、MIC値の上昇を鋭敏に捉えることが多剤耐性菌の検出の第一歩になると考えられる。そのためにも、微量液体希釈法によるMIC値の測定は重要である。
 微量液体希釈法による各耐性機序検出は、βラクタマーゼ(特にESBLやメタロβラクタマーゼ産生:以下MBL)などは阻害剤が配合されたウェルを設けることで検出・判定が可能である。現在、発売されている自動機器のMIC測定試薬もESBLに関しては検出可能な機器も存在する。また、機種毎にエキスパートシステムを搭載し、薬剤感受性パターンから薬剤耐性の可能性をアラートする機能を持ち合わせたものもある。
 CLSIやEUCASTでは各種βラクタマーゼ産生菌が検出された場合の結果解釈について記載されており、参考になると思われる。
 本稿では、各種βラクタマーゼの微量液体希釈法による検出基準および注意点と、それら結果の解釈について述べる。

(1)微量液体希釈法による薬剤感受性試験について

 現在、多くの施設で微量液体希釈法による薬剤感受性試験を実施しているが、その測定には自動機器を用いている場合が多い。それらに用いられている薬剤感受性用パネルはCLSIに準拠しており、その多くはブレイクポイント付近の2から3濃度を測定するのみである。腸内細菌科においてプラスミド由来に獲得された耐性は、その発現量から高度耐性を示す株から耐性遺伝子を獲得しているにも関わらず発現量が低く感受性域を示すものまで存在する。ゆえに、判定基準では感受性であってもMIC値の上昇が認められる場合があるため、可能な限り低濃度域のMIC測定(特にカルバペネム系)を実施することが望ましい。ブレイクポイント測定の場合には、数種類の薬剤の結果を用いて、できるだけ見落としのない基準を設定することが必要である。

(2)多剤耐性菌検出基準について

 感染症法による多剤耐性の届出基準が設けられているものに、多剤耐性緑膿菌がある。その基準を以下に示した。また、厚生労働省院感染対策サーベイランス(JANIS)における多剤耐性Acinetobacterの基準についても同様の値が設けられている。一方、それ以外のグラム陰性桿菌に対する届出制度や基準は設けられていないが、カルバペネム系、アミノグリコシド系、キノロン系が同時に耐性化を示した株では、多剤耐性化する遺伝子を獲得している場合がある。検出基準はCLSI M100S-21のブレイクポイントを用いればよいと考えられるが注意しないといけない点もある。KPCやNDM-1などが疑われた場合には国立感染症研究所への菌株送付が可能である。
【基準】以下の薬剤のMIC値が全て基準以上の株
カルバペネム系の何れかが“R” かつ、AMK ≧32μg/ml かつ、フルオロキノロン系の何れかが“R”

(3)βラクタマーゼ別検出ポイント

 基本は、ペニシリン系、セファロスポリン系、セファマイシン系、カルバペネム系の4系統の薬剤がβラクタマーゼ別にどのような感受性パターンかを認識し、MIC値の強弱を把握すればよい。また、各種βラクタマーゼ産生遺伝子のほとんどがプラスミド性であり、何種類もの遺伝子を獲得している株も存在することを認識しておきたい。さらに、感受性パターンやMIC値から、複数の遺伝子獲得を見分けることも重要である。以下にβラクタマーゼ別に検出基準と注意点について述べる。また、βラクタマーゼ産生の検出フロー案を図1に示した。

1.Extended Spectrum β-lactamase (ESBL)

  • a)検出基準
    微量液体希釈法によるESBL産生菌の検出についてはCLSIにて規定されたものがある(表1)。しかし、M100-S21のブレイクポイントを使用するならば日常的には実施する必要はないとされている。M100-S21に記載されている基準を示した(表2)。E. coliKlebsiella spp.、P. mirabilis以外の菌種に関してもESBL産生遺伝子がプラスミド性であるため、遺伝子を獲得している場合がある。これらの菌種はCLSIに検出方法は記載されていないが、基本的には同様の考え方が必要である。ブドウ糖非発酵菌でも獲得している可能性はあるが問題視はされていない。

    b)注意点
    M100-S21では、Enterobacteriaceaeのセフェム系のブレイクポイントが大幅に引き下げられ、M100-S21を使用すればESBLの検出は日常では必要がないとしている。CTXやCTRXは1μg/ml以下が感受性とされ問題がないと思われるが、CAZやAZTは4μg/ml以下が感受性である(表2)。日本におけるESBL産生菌の遺伝子型はCTX-M型がほとんどであり、薬剤感受性のパターンでは約50%はCAZやAZTが感受性と判定される。現状では、M100-S21のブレイクポイントを使用したとしても、ESBL確認試験は継続して行ったほうが良いと思われる。

    c)結果解釈
    CLSI検出基準を満たせば、ペニシリン系、セファロスポリン系、モノバクタム系は耐性として報告することとなる。セファマイシン系やオキサセフェム系に関しては特にふれられていない。

2.Cephalosporinase

  • a)検出基準
    特にCLSIでの基準はない。検出基準はないものの、カルバペネム系が感受性でCMZやFMOXなどのセファマイシン系やオキサセフェム系が耐性になればその産生が疑われる。特に、Klebsiella spp.やP. mirabilisなどは染色体にAmpC遺伝子が存在しないために、これら菌種で疑われた場合にはプラスミド性である可能性が極めて高くなる。

    b)注意点
    本来、Klebsiella spp.やP. mirabilisなどを除き、腸内細菌科やブドウ糖非発酵菌では通常産生しているために、染色体性かプラスミド性かの判断は困難である。MIC値についてもその産生量により様々であるため判断が難しいのが現状である。

    c)結果解釈
    CLSIではCephalosporinase産生株に対するセフェム系での治療は、その後3から5日で耐性化することがあるので注意が必要としている。特に誘導型の場合にはこの現象が発生しやすいと考えられる。一方で、プラスミド性の場合には当初よりMIC値が高い場合が多い。

3.Carbapenemase(ClassA:KPC, IMI, GES etc… ClassB:IMP, VIM, NDM etc… ClassD:OXA)

  • a)検出基準
    M100-S21では、Enterobacteriaceaeのカルベペネム系のブレイクポイントが引き下げられ、感受性はメロペネム1μg/ml以下、イミペネム1μg/ml以下と定められている(表2)。Carbapenemase、特にKPCの検出は当初Modified Hodge-Testによる確認試験があったが、このブレイクポイントを使用することでModified Hodge-Testは、感染対策上必要な場合を除き不要としている。一方、ブドウ糖非発酵菌についてはブレイクポイントの変更はなく、メロペネム4μg/ml以下、イミペネム4μg/ml以下と定められている。これらを満たせばCarbapenemase産生を見逃すことはないとCLSIでは記載されている。もちろん、Carbapenemase以外の耐性機序でも耐性になることはある。

    b)注意点
    NDM-1やKPCなどであっても、実測のMIC値が低値を示す場合がある。また、IMP型やVIM型で、特にE.coliK.pneumoniaeではIPMのMIC値が1μg/ml以下の場合がある(表3)。CAZ(MIC:≧8μg/ml)やSBT/CPZ(MIC:≧16μg/ml)のMIC値が通常より上昇している場合にはCarbapenemaseを疑って確認試験等を実施する必要がある。また、MEPMはIPMよりも比較的MIC値が上昇する傾向にあるため、MEPMのMIC値も参考にするとよい。

    c)結果解釈
    Carbapenemase 産生腸内細菌と確定すれば、カルバペネム系についてはMIC値のみ報告し、判定値は返却しない。また、カルバペネム系の治療効果については保障されたものはないとして、コメントするべきである(特に“中間:I”の場合)。もし、陰性であればCLSIのブレイクポイントによる判定値を使用してよいとしている。EUCASTでは、感受性であれば中間に、中間であれば耐性に1段階下げるように勧告している。

(4)微量液体希釈法によるβラクタマーゼ産生菌検出法

 微量液体希釈法によるβラクタマーゼ産生菌検出試薬は栄研化学よりESBL産生およびメタロβラクタマーゼ産生株を同時に検出できる測定用パネル(ドライプレート)が発売されている(パネル薬剤構成:表4)。ESBL検出はCLSI法、MBL検出はジピコリン酸を使用した検出方法を採用している。ESBL産生株の判定基準はCLSI法に基づき解釈すればよい。一方、MBLの検出については言及されたものはないため、ジピコリン酸添加でMIC値が2管以上低下した場合にはMBL産生を疑い精査する必要があると考えられる。数種類のβラクタマーゼを同時に産生している場合では、特にメタロβラクタマーゼ低産生株の見逃しがあると考えられ、それらを検出することが可能である。表3に当院にて検出されたCarbapenemase産生株の測定結果を記載したが、多くの株で判定が可能であり有用性は高いと思われる。

(5)キノロン系について

 基本的にはCLSIのカテゴリーに準じて耐性の有無を判断することとなる。グラム陰性桿菌の場合にはlevofloxacinまたはciprofloxacinを測定していることが多く、耐性株の選択にはこれらの薬剤で判定することが多いと考えられる。キノロン系の耐性はキノロン標的部位の変異による耐性が一般的である。現在検出される多くの株で1point mutationを起こしている株も多く、それらがさらに変異を起こすことで高度耐性化する。これらの耐性を鋭敏に捉えるためには、ナリジクス酸のMIC値が参考となる(MIC値:≧32μg/mlで耐性)。今後はこれらのデータを集積し、臨床治療への影響の有無を調査する必要がある。

(6)アミノグリコシド系について

 アミノグリコシド系の耐性は、主にアミノグリコシド分解酵素によるものであると考えられている。グラム陰性桿菌のアミノグリコシド系耐性はAMKが耐性化するとほぼ全ての薬剤で耐性となる。よって、AMKのMIC値測定は必須である。近年、プラスミド性16s ribosomal methylaseにより高度耐性化する株の報告もある。その際にはABKのMIC値が高度になることで、スクリーニングが可能である。

(7)自動機器による多剤耐性菌検出

 上市されている自動機器の多くにエキスパートシステム(薬剤感受性パターンから耐性機序を推測するシステム)が搭載されている。これらエキスパートシステムは多くの文献を元に、実測の感受性パターンからβラクタマーゼタイプを推測するものである。機種によっては、CLSI法による阻害試験が組み込まれているものもあり、より精度の高い推測が可能となっている。しかし、パターン化されたものであり、日常業務ではアラート的な使用方法にとどめておく方が良いと考えられる。そのアラートから、確認試験等を実施し確定することが望ましい。

参考文献

  1. European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST): Expert rules in antimicrobial susceptibility testing.
    http://www.eucast.org/expert_rules/
  2. Clinical and Laboratory Standards Institute. 2011. Performance standards for antimicrobial susceptibility testing. M100-S21. CLSI, Wayne, PA, USA.
  3. Yokoyama, K., Y. Doi, K. Yamane, H. Kurokawa, N. Shibata, K. Shibayama, T. Yagi, H. Kato, and Y. Arakawa. 2003. Acquisition of 16S rRNA methylase gene in Pseudomonas aeruginosa. Lancet 362:1888-1893.

(2011.3.9更新)

最終更新日:2021年11月4日
このページの先頭へ